木村草太氏「道徳より法学を」

木村草太氏が学校教育の道徳教育に意見を述べています。それを紹介します。

広島県教育委員会の道徳教材(小学校5,6年生用)で、組体操の練習でつよし君が肩を骨折をしたことを取り上げた教材がある。事故の原因は、わたる君がバランスを崩したことだった。わたる君はごめんとあやまるが、つよし君は許すことができない。そんなつよし君にお母さんが次のように語る「一番つらい思いをしているのは、つよしじゃなくてわたる君だと思うよ。母さんだって、つよしがあんなにはりきっていたのを知っていたから、運動会にでられないのはくやしいし、残念でたまらない。でも、つよしが他の人にケガをさせていたほうだったらつらう。つよしがわたる君を許せるのなら、体育祭に出るより、もっといい勉強をしたと思うよ」 つよし君の心に、「今一番つらいのはわたる君」という言葉が強く残ろ。そして、「その夜、ぼくはわたる君に電話しようと受話器を取った」という一文でこの教材は終わる。教材の実践報告にも、「この実践後の組体操の練習もさらに真剣に取り組み、練習中の雰囲気もとてもよいものになった」と誇らしげな記述がある。そこには、骨折という事故の重大さはまるで語られていない。(※中略)

組体操事故を教材にするなら、子どもたちに、次のような問いかけをすべきだ。「この事故の原因はなんだと思いますか」「骨折は、その子からどのような可能性をうばいますか」「この事故について、指導をしていた先生は、どのような責任を負うべきですか」「学校がいくら賠償金を払えば、骨折したことを納得できますか」「骨折という重大事故にもかかわらず、組体操を中止しない判断は正しい判断ですか」「バランスが崩れてもひとりもケガをしないようにピラミッドをつくることはできますか」「運動会で組体操を行わせることは違法だと思いますか」

このような問いかけをすれば、それぞれの人が異なる価値観を持っていること、異なる価値の共存のために普遍的なルール作りが必要であることを学ぶことができるだろう。また、実際の民法や刑法が、これらの問題にどんな答えを出しているかを学ぶ機会にもなる。法は人間味のない冷たいものではない。法は、人類の失敗の歴史から生まれたチェックリストだ。憲法は、国家権力を乱用し、人々を苦しめてきた歴史から、国家の失敗を防ぐ工夫を定めたリスト。民法は、人々の生活の中で生じやすいトラブル集とその解決基準。刑法は、よくある犯罪業とそれへの適正な刑罰の目安を定めたリストだ。

法学を学ぶということは人々の失敗の歴史に学ぶということだ。法には、すべての人の異なる個性を尊重しあいながら共存する知恵が詰まっている。法は、すべての人を見捨てない。法学に触れて、法のやさしさ、暖かさを感じてほしい。

私は、木村草太氏のブログから、あらためて、ものごとを情緒的に取り扱うことの危険を教えていただきました。木村草太氏の講義をうけてみたくなりました。木村氏の著書「キヨミズ准教授の法学入門」がおすすめだとあります。みなさんもよんでみませんか。

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